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竹中 栄晶

Hideaki Takenaka · 山梨大学准教授 · 博士(理学)
竹中栄晶(Hideaki Takenaka)— 山梨大学准教授、AMATERASS開発者

山梨大学准教授、博士(理学)。静止気象衛星による太陽放射解析、衛星リモートセンシング、大気放射、機械学習および再生可能エネルギー応用を専門とする。第一原理に基づく物理モデルと機械学習による計算知能を融合し、人工衛星観測から物理量を高速かつ高精度に推定する解析アルゴリズムの開発に取り組んできた。

静止衛星準リアルタイム太陽放射解析システム「AMATERASS」の開発者であり、2007年7月7日の解析開始以来、システムの開発・実装・長期運用を継続している。

研究の出発点 ── 大気放射と地上観測

千葉大学環境リモートセンシング研究センター(CEReS)において、大気放射と衛星リモートセンシングの研究を行い、2009年に千葉大学から博士(理学)の学位を取得した。その後、東京大学大気海洋研究所気候システム研究系(AORI/CCSR)、および宇宙航空研究開発機構・地球観測研究センター(JAXA/EORC)などにおいて、衛星観測データの物理解析と地球環境研究に従事した。2026年より山梨大学大学院総合研究部工学域准教授。

衛星観測と対になる地上観測では、東アジア域に展開する放射・エアロゾル観測ネットワークSKYNETに参加した。辺戸岬をはじめとする観測地点の維持管理や各種フィールド観測キャンペーンに携わり、地上観測と衛星観測を組み合わせて、東アジアにおける雲、エアロゾルおよび日射量の特性に関する研究に貢献した。2003年から2013年までは、各国の観測データを収集・転送・保存するSKYNETメインサーバーの管理を担当。

このような地上観測、放射伝達計算、衛星センサー校正を一つの解析体系として結び付けた経験が、後のAMATERASS開発の基盤となった。

物理モデルと機械学習を融合した衛星解析

従来の衛星物理解析では、放射伝達モデルを事前に計算して参照表を構築するLook-Up Table(LUT)法が広く用いられてきた。しかしLUT法では、考慮する大気・地表面パラメータが増えるほど必要なデータベース容量が爆発的に増大し、高次元問題への適用が困難になる。

この限界を克服するため、放射伝達モデルによる計算結果をニューラルネットワークに学習させ、高速な放射計算ソルバとして利用する方法を開発した。独自に開発した歪誤差逆伝播法(Distortion Back-Propagation method: Distortion-BP)は、学習パラメータを多重化することで誤差関数空間を歪ませ、学習が精度の低い局所解に停滞することを抑制する。また、ニューロンの「突然死」と「緩慢な死」を導入し、学習過程でネットワーク構造を動的に調整する。

このNNソルバによって、エアロゾル、雲、吸収気体、地表面など多数の物理パラメータを簡略化せずに扱いながら、放射伝達計算を約1,000倍高速化した。衛星が観測する放射輝度から、地表面全天日射量、直達日射量、散乱日射量、大気上端放射量などの高次プロダクトを、衛星観測後およそ10分以内に生成することが可能になった。

この手法は、今日のphysics-informed machine learningにも通じる、物理モデルと機械学習を統合した計算科学的アプローチである。単なる観測値の統計的回帰ではなく、放射伝達モデルが表現する物理過程を学習することにより、物理量を広域かつ高頻度に推定できる点に特徴がある。

AMATERASSの開発・実装と長期運用

2007年7月7日、静止気象衛星観測から地表面および大気上端の太陽放射量を推定する準リアルタイム解析を開始した。この解析システムがAMATERASSである。

AMATERASSは、衛星データの取得、前処理、放射伝達に基づく物理解析、位置補正、緯度経度格子への変換、プロダクト生成および公開までを連続的に実行する解析基盤として開発・実装してきた。ひまわり6号、7号、8号、9号へと衛星が世代交代する中でも更新を重ね、準リアルタイム解析を継続している。

開発した解析アルゴリズムを静止衛星「ひまわり」に適用することで、東アジア域における直達日射量と散乱日射量の季節変動に逆相関が存在することなど、新たな地球科学的知見を示した。現在では、AMATERASSの解析結果は、気象・気候、再生可能エネルギー、農業・植生、水資源、社会科学など幅広い分野で利用されており、データのダウンロード数は、2026年3月までに累計2億件を超えている。

静止衛星「ひまわり」のセンサ校正とデータの信頼性向上

静止衛星観測を定量的な物理解析に利用するには、衛星搭載センサーの校正精度と位置情報の安定性が不可欠である。

気象庁気象衛星センターとの共同研究では、「ひまわり」搭載可視・近赤外センサーの代替校正手法の開発に携わった。地表面、大気、雲およびエアロゾルの状態を放射伝達モデルで再現し、衛星観測値と比較することで、軌道上にあるセンサーの校正係数を継続的に評価する手法である。

この成果は、気象庁から世界気象機関のGSICS(Global Space-based Inter-Calibration System)に日本の衛星校正技術として提案され、「ひまわり8号・9号」を含む可視・近赤外バンドの代替校正処理に用いられている。

Geolocation CorrectionとNASA GeoNEX

静止衛星は同じ地域を高頻度に観測できる一方、衛星の姿勢や走査鏡の可動などによって、画像の位置が観測時刻ごとに誤差を持つ問題がある。この誤差は、衛星データから物理量を定量的に解析する際の大きな誤差要因となる。

この問題に対して、位相限定相関法(Phase-Only Correlation)を応用したGeolocation Correction methodを開発した。衛星画像と地理情報の対応を高速かつ高精度に推定し、静止衛星画像の位置ずれを補正した上で、安定した緯度経度格子プロダクトを生成する手法である。

開発した位置補正および格子化アルゴリズムは、NASAエイムズ研究センターとの国際共同研究としてNASA NEXへ提供された。GeoNEX研究チームによる統合を経て、NASA GeoNEX L1Gプロダクトとして補正済みデータが公開された。

東日本大震災とエネルギー研究、国際協力への展開

2011年の東日本大震災と、その後に顕在化した電力供給問題を契機として、AMATERASSによる太陽放射解析を、太陽光発電出力推定、電力系統および分散協調型エネルギーマネジメントの研究へ展開した。

JST CREST「分散協調型エネルギー管理システム」研究領域では、衛星データから日射量と太陽光発電出力を準リアルタイムに生成する解析基盤を構築・運用し、約7年半にわたる制御、情報、電力、社会科学の分野横断的研究へ基盤データを提供し、各研究チームの制御理論、電力市場、需要解析および社会科学研究と接続する役割を担った。

JST SATREPSでは、欧州静止気象衛星Meteosatを用いて解析領域を中央アジアへ拡張し、アラル海地域の水資源、農業および気候レジリエンスに関する国際共同研究へAMATERASSの解析技術を展開した。

現在の研究

現在は、静止衛星データ解析、放射伝達モデルおよび機械学習を基礎として、太陽光発電の時空間的な変動とポテンシャル評価、分散型電源の最適配置、災害時のエネルギーレジリエンス、太陽光発電を利用した淡水生産および水資源評価へ研究を展開している。

地上観測と大気放射の基礎研究から出発し、物理モデルと機械学習を融合した解析アルゴリズムを開発し、それを長期運用可能な情報基盤として実装することで、地球科学と様々な学際的研究を結び付けることを目指している。