AMATERASSは、静止衛星の観測データを物理解析し、地表面に到達する太陽放射量などを準リアルタイムで推定するシステムです。衛星画像の明るさを経験的に換算するのではなく、太陽放射が大気中を伝わる過程を放射伝達計算に基づいて解析します。大気中の雲やオゾン、水蒸気などの吸収・散乱を考慮し、衛星観測データから地表面の放射量を推定します。AMATERASSは地上観測に基づく研究を基本とし、放射伝達計算とニューラルネットワークによる高速化から始まりました。さらに、静止衛星データを物理量として安定して利用するための衛星搭載センサ校正、時系列解析に不可欠な衛星観測位置情報補正アルゴリズムと緯度経度グリッドプロダクト生成技術へと展開し、太陽光発電・太陽熱利用、陸面・水文、植生、社会科学、防災等、分野横断的な太陽放射量データ利用を支える基盤となっています。
放射収支の理解という出発点
開発の出発点は、放射収支の観測的な把握を通じて、気候や気候変動の理解に貢献することでした。地球は太陽放射を受け取る一方、地表面や大気からの赤外放射によってエネルギーを宇宙へ放出しています。大気中の粒子や吸収ガスは短波放射の吸収・散乱や長波放射の吸収・再放射を通じて、地球のエネルギー収支に影響します。その影響を評価するには、大気上端と地表面の放射収支を、観測に基づいて広域かつ継続的に推定することが重要です。地上観測と観測点上空の地点スケール推定から出発し、段階的に広域衛星解析へと発展してきた研究の積み重ねがあります。日射計、スカイラジオメーターやマイクロ波放射計等による現地観測の経験が、衛星推定の基盤を支えています。
物理計算の学習アルゴリズムと準リアルタイム解析
放射伝達計算は詳細な物理過程を扱える一方、衛星の高頻度・広域観測を継続して解析するには大きな計算量が必要です。AMATERASSでは、放射伝達計算そのものをニューラルネットワークに学習させ、物理モデルに基づく解析を高速化しています。この計算手法を、静止衛星が同じ地域を繰り返し観測する特性と組み合わせることで、準リアルタイムでの広域解析を実現してきました。一般的な衛星解析で使われるLUT法は、対象パラメータが増えるとデータベース容量や内挿処理が急速に複雑化し計算コストの増大から解析が不可能になります。そこで、放射伝達モデルの物理過程を保持したまま、高精度に近似する学習アルゴリズムを開発し、放射パラメータから日射量を高速に推定出来るようになりました。厳密だが計算コストの高い放射伝達計算を、高頻度な衛星観測スケジュールに同期できる実用的な計算速度へ引き上げた点が、AMATERASSの中核的な特徴です。
ひまわり5号から現在まで
開発はひまわり5号の観測データからスタートしました。準リアルタイム解析とデータ公開は、2007年7月7日にひまわり6号の観測データを用いて始まり、その後の衛星へ引き継がれてきました。現在は、ひまわり8号・9号の観測データを用いて、フルディスク領域を10分間隔、日本域を2.5分間隔で準リアルタイム解析しています。また、MSG-IODCの観測領域における準リアルタイム解析も開始しました。AMATERASSの開発の中で衛星搭載センサーの校正技術開発にも貢献しました。気象庁気象衛星センターとの共同研究では、雲、エアロゾル、陸面を用いた可視センサ代替構成技術の構築に協力。この成果は、気象庁から世界気象機関のGSICS(Global Space-based Inter-Calibration System)に日本の衛星校正技術として提案され、「ひまわり8号・9号」を含む可視・近赤外バンドの代替校正処理に用いられています。
東日本大震災を契機とした学際的研究の広がり
AMATERASSの役割は、東日本大震災を契機に大きく変化しました。気象・気候研究のために始まった太陽放射解析は、東日本大震災の後に顕在化した電力供給問題に対して要請に応える形で太陽光発電出力の解析へ接続し、再生可能エネルギーをめぐる課題にも向き合うようになりました。その後、JST/CRESTやJST/SATREPSといったプロジェクトにAMATERASSのデータを提供し、太陽光発電の出力把握や電力システムの研究などへ展開しました。現在ではさらに、植生、水文、社会科学、防災など、太陽放射情報を必要とする分野での研究利用も広がっています。